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コラム
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【2023】人的資本の情報開示とは?義務化の開始時期・対象企業・記載すべき情報

    「人的資本」とは、企業の人材を「資本」と捉えて投資によって価値の上昇を目指す考え方です。反対の考え方が「人的資源」であり、人材は「コスト」であり「投資対象」ではないというものです。

    こうした人的資本の考え方は「ESG投資」「ダイバーシティ経営」とも相性がよく、2022年8月からは内閣官房から人的資本の情報開示をすべき19項目が提示されました。さらに金融庁は2023年より有価証券報告書における人的資本の情報開示の義務化を実施しました。
    このことは、たとえば人材の「定着率」や「女性管理職比率」が従来よりも非常に厳しくチェックされ、投資判断の材料にもなるということを意味します。
    また人材ビジネスの事業者にとっては、有価証券報告書はこれまで以上に重要な資料となるでしょう。今回は「人的資本の情報開示」とは何か、具体的に解説します。

    人的資本の情報開示とは

    人的資本の情報開示とは、人材の定着率や女性管理職比率など「人的資本」に関する具体的な情報を有価証券報告書にて開示することです。既に開示が望ましい19項目が公表されており、それらは記事の後半でまとめて紹介します。
    なお19項目は「開示が望ましいもの」とされており、全項目を開示する必要は必ずしもありません。たとえば「男女の賃金差」や「女性管理職比率」「男性の育児休暇の取得率」などを開示している例が国内では多いです。

    人的資本の情報開示の義務化が進むのはどうして?

    欧米の動き

    まずは欧米の動きが挙げられます。欧州委員会や米証券取引委員会が既に人的資本の情報開示を進めており、国内での情報開示の義務化も足並みを合わせたものと言えるでしょう。人的資本の開示はグローバルスタンダードな動きと位置付けることができます。

    EU 欧州委員会によって非財務情報「社会・従業員」の項目で性差別廃止や機会均等の情報開示を推奨
    米国 米証券取引委員会が従業員数開示を義務化。離職率の開示が求められるケースも
    日本 企業統治指針で人的資本への投資や女性の管理職登用など多様性に関する開示を推奨

    ESG投資の広まり

    世界的にESG投資(「Environment:環境」「Social:社会」「Governance:ガバナンス」)を重視する投資家の動向が活発となっており、これらの情報の開示を投資家側から求めるケースも多く見られます。
    つまり投資家の求めに応じる形で、企業側も情報開示を進めているという一面があります。

    ダイバーシティ経営の推進

    男女の賃金格差の是正や女性管理職比率の改善の一環として、人的資本の情報開示が行われているという面もあります。これらは総じて「ダイバーシティ経営」の一環であり、国内でも「男女平等」に焦点を当てた情報開示を行う企業は増えています。

    人的資本の情報開示は採用マーケティング、ブランディングにも好影響

    人的資本の情報開示は、採用マーケティングやブランディングにも好影響を与えます。従業員のエンゲージメントや企業の人材育成への取り組み、ダイバーシティ経営に関する取り組みを有価証券報告書などを通じて応募者もより正確に把握できるようになるためです。
    また人的資本への投資に積極的な企業に入社することは、人材の側にとって「自分の価値を高めるために入社する」というモチベーションになります。人材を「資源」と捉える企業よりも育成に積極的とみられるためです。
    採用マーケティングについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

    対象企業の情報開示はいつから?

    対象企業

    情報開示の対象企業は上場企業などおよそ4000社の大手企業です。該当する企業では2023年3月期決算から、有価証券報告書での情報開示がスタートしています。

    情報開示の義務化はいつから?

    前述の通り2023年3月期決算より義務化がスタートしています。とはいえ開示対象の19項目はあくまで「開示が望ましいもの」とされており、全ての項目が開示対象になっているわけではなく、各社ごとの有価証券報告書での記載の分量はまだまだばらばらです。
    筆者が個別に数社の有価証券報告書を見た限りでは、女性管理職比率や男女の賃金格差、男性の育児休暇取得率といった「男女平等」「ダイバーシティ経営」に関することに焦点を当てているケースが多い印象です。

    人的資本の情報開示をすべき19項目

    内閣官房から「情報開示をすべき」として定められた人的資本に関する項目は、以下の19種類です。とはいえいわば「努力義務」であり、この19項目に対して全て網羅的に情報開示をすることが求められているわけではありません。
    とはいえこれらの項目が「ESG投資」「ダイバーシティ経営」の観点から投資家の評価ポイントになっていることも踏まえると、どの分野に対して積極的に開示を行うのかといった事柄は非常に重要点です。

    分野 項目 詳細
    人材育成 リーダーシップ、育成、スキル・経験 各種研修やキャリア開発を提供できているか
    エンゲージメント エンゲージメント 従業員はやりがいをもって働けているか
    流動性 採用、維持、サクセッション 離職率、定着率など
    ダイバーシティ ダイバーシティ、非差別、育児休業 女性管理職比率や男女間賃金格差など
    健康・安全 精神的健康、身体的健康、安全 労災の件数や従業員のウェルビーイング
    労働慣行 労働慣行、児童労働・強制労働、 賃金の公平性、福利厚生、組合との関係 懲戒処分や業務停止処分の件数など
    コンプライアンス コンプライアンス・倫理 苦情の件数など

    ISO30414が指標とする11領域も要確認

    「国際標準化機構(ISO)」では、人的資本に関する国債ガイドライン「ISO30414」も定めています。これらの各項目は先の19項目と相通じる点も多いため、開示内容の検討などの参考にしてください。

    領域 概要
    コンプライアンスと倫理 ビジネスの規範に対するコンプライアンス
    コスト 採用や雇用、離職など、労働力の「コスト」
    ダイバーシティ 労働力とチームの多様性
    リーダーシップ 管理職、リーダーへの信頼の指標
    組織文化 社員の意識と定着率の測定
    健康、安全 従業員の精神的、身体的な健康や労災など
    生産性 人的資本の生産性と組織への貢献
    採用、異動、離職 適切な人事プロセスが企業の人事で実現できているか
    スキルと能力 人的資本の質
    後継者計画 後継者候補の育成度合い
    労働力 社員数やリソース

    まとめ

    人的資本に関する情報開示はまだまだ「始まったばかり」です。開示が推奨される19項目に対しては、企業は取り組みを強化し、1つでも多くの項目を開示していく流れが生まれるでしょう。
    人材ビジネスの事業者にとっては、各社の有価証券報告書を読み解くことで「女性管理職比率が低い」「社員の定着率が低い」などの採用の改善点を探ることもできるようになります。
    近年、人材紹介業は「採用コンサルティング」との一体化が進んでおり、クライアント企業の採用課題を分析したうえで、その課題を解決できる人材を紹介するという動き方が主流になりつつあります。
    人材紹介業に携わる方は、2023年以降の採用コンサルティングの材料としてぜひ「人的資本に関する開示」を参考にすることをおすすめします。

    ※当サイトに掲載されている記事や情報に関しては、正確性や確実性、安全性、効果や効能などを保証するものではございません。

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