スタートアップ企業が人手不足に陥る原因と解決策
2021年には国内スタートアップの資金調達額が総額8000億円を突破し、10億円単位の資金調達の件数も増加。
それに伴って、スタートアップ企業の採用ニーズも加速しています。
一方で国内の多くのスタートアップ企業は「人手不足」が慢性化。またそもそも創業者らトップが「採用の重要性」や「難しさ」を理解しきれていないケースも。今回はスタートアップ企業が人手不足に陥りがちな原因と、よくある採用の失敗例などを解説します。
スタートアップ企業が人手不足に陥る原因
まずはスタートアップ企業が、資金調達額が大きかったとしても「人手不足」に陥りがちな代表的な原因をいくつか紹介します。
入社の動機付け | プロダクトが無いため「魅力」がアピールしづらい
一定の資金調達額があったとしても、その時点で手元にあるのは「ホワイトペーパー」か「MVP(Minimum Viable Product)」のみということは珍しくありません。
・プロダクトを「これから開発する段階」の企業
・「一定規模のプロダクトの保守運用及び改善」を行う段階の企業
上記2社からスカウトがあった場合、後者を選ぶ人材が少なくないのはまぎれもない事実です。
採用難易度 | 創業者の「世界観」を理解して柔軟に動ける人材が必要
スタートアップは必然的に「創業者のトップダウン」になりがちです。
一方でスタートアップの創業者は資金調達から営業、マネジメント、プロダクト開発まで担当範囲が広く、実際には「資金調達にかかり切り」ということも珍しくはありません。
つまり現場のスタッフからすれば、創業者との密なコミュニケーションの難易度は意外と高いもの。創業者の「世界観」を理解して柔軟に動ける人材でなければ、認識の齟齬が日に日に大きくなり、円滑にプロダクトを作り上げていくのは難しいでしょう。
「世界観を理解して動ける」という採用基準のあいまいさが、採用の難易度を上げている面は否めません。
採用が必要なポジションの見極め | 創業者やナンバーツーが採用の重要性を理解していない
創業者らが「採用が必要なポジション」をきちんと見極めできていないケースも、しばしばあります。
たとえばスタートアップ企業でよくあるのは、採用するポジションが「エンジニア」に極端に偏っているというもの。
エンジニア採用はもちろん重要ですが、特に「30人の壁」が迫っている段階ではコーポレート職の採用も組織崩壊を未然に防ぐためには重要です。詳しくは後述します。
スタートアップ企業が陥りがちな「採用の失敗」
スタートアップ企業はしばしば「採用後の失敗」も起こりがちです。陥りがちな「採用の失敗例」を3つほどご紹介します。
その場しのぎの採用 | 昇給条件や評価基準、「任せたい仕事」が明確でない
「プロダクトの開発が遅れているからエンジニアを◎名増やす」「法人営業の人手が足りないから、営業を◎名増やす」といった具合に、いま目の前の「人手不足感」の解消だけを目的に採用を闇雲に進めると、組織の崩壊を招くリスクがあります。
目の前の人手不足感だけは束の間は解消されるものの、長い目で見た時に「任せたい仕事」が明確ではないケースが多いためです。
上の例で言えば、「プロダクトの開発が遅れているからエンジニアを◎名増や」したい場合は外注やフリーランスの活用といった手もあります。
正社員採用は、その人材が中長期にわたって自社にもたらしてくれるであろうバリューまで見据えたうえで慎重に行うべきでしょう。
「自分と同じ人」を求める | 創業者と現場の溝が日に日に拡大する原因となる
創業者らは「自分と同じ目線に立って、同じようなスキル感で仕事をすること」を現場にも、新規採用する人にも求めがちです。
そのため現場に作業を依頼しても「自分だったらこうするのに」「何故こんなに成果が出ないのか」と、現場と自分との違いが気にかかり、創業者の側が現場への不信感を強めてしまうことも。結果として、創業者と現場の溝が日に日に拡大していきます。
採用面接に来る人は「自分ではない」ことを理解し、長所を評価し「その長所を生かせないのはマネジメントの責任である」と受け止めない限りは、人材の中長期的な活躍は望めないでしょう。
30人の壁 | 最悪の場合は「組織崩壊」のリスクがある
筆者が以前、耳にした「30人の壁」の実例をまずご紹介します。
その企業は、実店舗を持つ正社員30名(※アルバイトは数百名)程度の企業。
SNS広告を中心とした集客施策がヒットし、都内への出店の次段階として、地方都市への出店を強めていました。
それに伴い、店舗運営経験がある正社員を矢継ぎ早に採用し、10数名程度+アルバイト程度だった企業の規模が倍以上へと急拡大した形。地方店舗は赤字でしたが、それでも一等地へのオフィス移転も決まり、正社員100名越えに向けた採用計画もスタートしていました。
ところがある日、社内で「CPA(顧客獲得単価)」の計算式のミスが発覚。
地方都市への出店が実際にスタートしても客足が伸びず、広告費を含めて考えるとむしろ赤字だった理由は「CPAの計算ミス」だったのです。
出稿を決定した純広告の取りやめも、一等地に移転したオフィスの賃料も払い戻しはできず、結果として赤字が見る見るうちに急拡大。「100名採用計画」のはずが早期退職者を募集。社員数は15名程度に逆戻りしたそうです。
こうした「CPAの計算ミス」というケアレスミスは、社員数15名程度でトップの目が現場に行き届いている状態であれば起こらなかったでしょう。計算ミスが起きたことは仕方ないですが、「30人の正社員が誰もミスに気づかない」状況が問題なのです。
上のケースは残念ながら、十分なマネジメント体制やダブルチェック体制を構築しないまま、現場に権限委譲したことによる広義での「コミュニケーションミス」「マネジメントの崩壊」と言えます。
組織は30人を超えると、上の例の通り、それまででは信じられなかったようなミスや認識の齟齬が起こるものです。そのことを理解せずに、組織を急拡大していくと上のような問題が勃発します。
組織体制が「30名以上」へと拡大するフェーズは、採用以前に「社内のマネジメント体制」「教育体制」を見直すことも重要です。
スタートアップ企業におすすめの「採用の流れ」
スタートアップ企業の採用は「30人の壁」を念頭に置いたうえで、「少数精鋭」を基本として進めるのがおすすめです。
~5人から10人 | 少数精鋭でフリーランスも小規模に活用
社員数が5人未満~10人程度の場合は、創業者のビジョンを直感的に理解している「パートナー」のみを採用しましょう。この時期に採用した社員は将来的なCMOやCTO、幹部職などと見なして良いでしょう
この時期はリソース不足にも直面しますが、前述のとおり「リソースが足りない」とその場しのぎでの採用をするのはNG。フリーランスや外注の活用も視野に入れましょう。
10人~30人 | コーポレート部門を徐々に強化しつつ「ビジョン」を明確化
10人~30人規模では「30人の壁」に直面するため、見落としがちではありますがこの時期は「コーポレート」の強化が重要です。1on1の実施や、社内の各種制度の充実などが、地味ですが社員の定着率のアップやモチベーション向上に寄与します。
また「ビジョン」の明確化も重要です。
5人~10人の頃は言葉にせずとも通じていた「ビジョン」が、規模が拡大すると、社内でも通じなくなるということはありがちです。創業者自身がビジョンに自身を持てなくなったり、方向性がブレだすと「30人の壁」を乗り越えられません。
30人以上 | 「50人の壁」を見据えつつ段階的な拡大
30人を超えると「50人の壁」も見据える必要があります。組織が50人を超えると「30人の壁」以上に組織が複雑化し、なおかつ法令上の義務なども発生します。30人規模の段階でコーポレートに優秀なスタッフを採用し、50人以上への体制拡大に何が必要か、入念に話あいましょう。
人材紹介会社の活用もおすすめ
スタートアップは「人材紹介」を活用し、少数精鋭で仲間を集めるのもおすすめです。
5人未満~10名未満の規模程度の時期は、特に「集める仲間の質」が重要です。「前職の同僚と一緒に起業する」といった例でもなければ、自身のビジョンを直感的に理解し、一緒に働いてくれる仲間を見つけるのは簡単ではありません。
数千万程度の資金調達に成功している企業であれば、大手コンサル出身や大手IT企業出身といったハイクラス人材を数名採用したとしても、お釣りが出ます。
【人材紹介会社の担当者向け】スタートアップ向けの人材紹介の将来性
最後に、人材紹介会社の担当者の方に向けて「スタートアップ向けの人材紹介」の将来性を解説します。
スタートアップの資金調達状況は、冒頭でご紹介した通り、近年非常に好調。ちなみに、国内の機関投資家では「年金基金」が特にスタートアップへの投資を加速していることで有名です。
数億~十億といった単位でのスタートアップの大型調達のトレンドがいつまで続くかは不透明感も強いですが、より少額の範囲での調達自体は、優れたMVPやホワイトペーパーがあれば決して難しくはないでしょう。
そのため「スタートアップ企業でのハイクラス人材の採用」というトレンドも、当面は続くと見られます。
まとめ
今回はスタートアップ企業が人手不足に陥りがちな原因や、採用の失敗例。またスタートアップ企業向けの人材紹介のトレンドなどについて紹介しました。
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