なぜ派遣会社による人材紹介事業の立ち上げ・参入が増加しているのか?
人材関連企業に勤められている方々は、身の回りの派遣事業者が人材紹介事業を立ち上げている事例を目の当たりにしている方々も少なくないと思います。では、なぜそういった事例が増加しているのでしょうか。本記事では、その背景と人材紹介事業を始めるメリットについて解説していきます。
派遣会社の紹介事業立ち上げ増加の背景
2つの法改正による2018年問題
2012年の労働契約法改正、2015年の労働者派遣法改正に伴い、派遣会社にとって「2018年」は大きな転換期でした。それぞれの法律が適用され、派遣の3年ルールが制定され、初めての有期雇用の更新年が2018年だったためです。つまり、有期雇用から無期雇用への切り替えが必要になった派遣先企業が、人件費の高騰を避けるために、雇い止めを行う事例が多いのではないかと予想されたのです。仮に雇い止めが増加した場合、派遣会社の収益源が減少する可能性もあります。そのリスクヘッジ策として、人材紹介による新たな収益源を作りたいという人材派遣会社が増加していると考えられます。
同一労働同一賃金
2015年頃の派遣法改正の影響が派遣会社にとって極めて大きなものだったのと同様に、2020年4月から大企業で導入された「同一労働同一賃金」制の影響も注視していく必要があるでしょう。同一労働同一賃金とは「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差」を禁じるもの。つまり「同じ労働内容」であれば正規雇用・非正規雇用を問わず、同じ賃金にすることが義務付けられました。「同一労働同一賃金」の制度導入がスタートしたことで、派遣先企業にとっては、正社員ではなく派遣社員に業務を依頼する金銭的メリットが薄らぐ可能性が極めて大きいです。よって、派遣切りが進む恐れがあります。なお大企業に続き、中小企業への制度導入は2021年4月にスタートしました。しかし2024年時点ではまだまだ制度の認知が甘く、「報告徴収の強化」が方針として掲げられている状態です。「同一労働同一賃金の遵守の徹底」には全国的に課題があり、あらゆる企業で「同一労働同一賃金」が本格的に適用された際の派遣業への影響は未知数です。同一労働同一賃金が派遣業に大きく悪影響を及ぼすことを見越し、人材派遣業から紹介事業に参入する事業者も一定数存在している可能性は十分にあります。
利益率の低下に対する施策
リーマンショック以前までの派遣事業は、利益率が20−30%と比較的高いだけでなく、収益構造も安定性が高いとされていたことから、儲かる事業として人気がありました。しかし、リーマンショック以降は、派遣先企業の人材関連予算の縮小もあり、派遣会社に払う金額の相場も減少しつつあると同時に、最低賃金は上昇を続けています。現在では、10%以上の利益率がある派遣会社は珍しいと言われるほど、利益率が低下しています。会社全体として、利益率をあげていくための仕組みとして、人材紹介事業を立ち上げる派遣会社が増加していると考えられます。
新たな収益源としての人材紹介事業の魅力
では、派遣会社にとっての「新たな収益源」としての紹介事業の魅力はどのような点にあるのでしょうか。結論から言えば、人材ビジネスにおける「成長率が高い産業」であり「派遣会社である強みを活かせる事業でもある」点が大きいです。
人材派遣業・人材紹介業の市場規模
2023年時点の人材派遣業、人材紹介業、再就職支援業の市場規模はそれぞれ以下の通りです。
・派遣業の市場規模:8兆8,600億円(前年度比7.6%増)
・ホワイトカラー職種の人材紹介業の市場規模:3,510億円(同18.6%増)
・再就職支援業の市場規模:245億円(同23.7%減)(※1)
なお2010年度の時点では、人材紹介業の市場規模は850 億円に過ぎませんでした。人材紹介は10年強の間に、4倍以上の市場拡大が実現している「成長産業」です。つまり派遣会社にとっては10年で4倍に拡大した成長産業に対して、派遣業で培った法人営業及び求職者集客のノウハウを横展開することで、参入しやすい状況が生まれていると言えるでしょう。
有料職業紹介の免許取得要件の緩和も追い風に
加えて、有料職業紹介の免許取得要件は「派遣会社の許認可取得要件」よりも緩い傾向があることも1つです。たとえば、有料職業紹介の許認可取得における「財産要件」は以下の通りです。
・資産総額から負債を引いた額が500万円を超えている
・事業資金が現預金で150万円以上
この財産要件は人材ビジネスの開業においては決して高いものではなく、人材紹介業を個人で開業する方も近年は増えています。人材派遣の許認可と有料職業紹介の許認可は異なるため、派遣会社が参入するには「新たに人材紹介免許を取得する」必要があります。とはいえ派遣会社にとって、人材紹介の免許取得要件は非常にハードルが低いため、必要に応じて人材紹介の開業サポートを手がける事業者などから免許取得の支援を受けることで、比較的簡単に開業できるでしょう。
派遣会社の紹介事業立ち上げのメリット
派遣会社による紹介事業の立ち上げにおいては、0から事業を立ち上げる場合と比較して、どのようなメリットがあるのでしょうか。やはり一番大きなメリットとしては、正社員として就職する可能性のある人材にリーチするプールを持っていることでしょう。派遣として就業している人の中でも、そろそろ正社員として落ち着きたいという人は決して少なくありませんし、そのような既存のリソースを求職者集客に活用することできるからです。また、求人開拓においても大きなメリットがあります。派遣の受け入れをしている企業は、中途採用をしている場合も多く、すでにある派遣先のつながりを有効活用することで、求人獲得におけるハードルは大きく下がることが考えられます。また、派遣の受け入れをする企業には、社員数が比較的多い企業が多いので、他社が獲得できないような大手企業の求人を獲得できる可能性もあります。大手求人があることは、求職者にとっての信頼にも繋がるだけでなく、集客数の増加も狙えることを考えると、大きなメリットになるでしょう。
リスクは?
増加の背景やメリットについては見てきましたが、逆にリスクとしてはどのようなものが考えられるのでしょうか。一番想定されうるリスクとしては、派遣事業で保有している集客チャネルや人材プールに、正社員雇用を希望する人材が少ないことや、経歴やスキルの関係から採用企業側の正社員としての採用ニーズがあまりないことがあげられます。つまり、「正社員雇用ニーズが多そうだったから」と言う理由でいざ紹介事業を始めてみると、月に数名しか正社員企業のスタッフがおらず、正社員希望の人々の集客に苦労するというケースがあるのです。しっかりと、事前にどれくらいニーズがあるのか検証してみることが重要でしょう。
人材紹介業への参入の難しさの「解決策」
人材紹介業への参入に対して「難しさ」を感じる派遣会社の担当者の方もいるのではないでしょうか。そうした場合、主な解決策としては2通りがあります。
許認可取得のサポートを受ける
まずは一番最初のハードルとなる「許認可取得」において、サポートを受けることをおすすめします。人材紹介マガジンを運営するZキャリアプラットフォームでは、人材紹介業の免許取得のサポートに加え、開業後に必要となる求人データベースの提供など各種サポートを提供しています。紹介事業への参入を検討されている担当者の方はお気軽にお問い合わせください。
自社の予算次第でM&Aも検討する
自社の予算次第で、人材紹介会社のM&Aを検討するという手もあります。ただしこの場合、買収先の法令違反などが発覚すると「許認可を引き継げない」ケースも想定できます。デューデリジェンスは、慎重に行うことをおすすめします。
許認可を引き継げる場合は、買収先の企業の免許に加え、求人企業及び求職者のそれぞれのリードや求職者集客のノウハウ、キャリアアドバイザーのノウハウなども引き継げます。優位性をもって紹介事業に参入できる可能性があります。
まとめ
今後の展開として、人材紹介事業を考えている人材派遣事業者の方々も多いのではないでしょうか。利益率の高さや事業立ち上げにおける初期投資が低いことは魅力的ですが、自社で運営が可能なリソースがあるのか、しっかりと検証してから始めることが理想です。
(※1)出典元:NOVEL株式会社(https://n-v-l.co/blog/human-resources-recruitment-market-size)(参照2024-10-01)
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