【保存版】人材派遣業とは?派遣業の定義・種類・市場動向・請負との違いを解説
人材派遣会社とは派遣スタッフを企業に紹介し、双方をマッチングして労働派遣契約を結ぶ企業です。派遣元会社がスタッフと契約を結んだ上で、派遣先企業の指揮命令下に配置されます。派遣先企業から派遣手数料を受け取ることで、運営されています。今回は人材派遣業の定義や、人材派遣業の詳しい分類(種類)、市場動向を解説します。
人材派遣業とは?
人材派遣業とは、派遣元企業が雇用するスタッフを「派遣先企業」へと紹介します。派遣元とスタッフの間に雇用関係がありつつも、スタッフは派遣先の指揮命令下に置かれ、指示を受けて業務を遂行するものです。
ちなみに、派遣や業務遂行の基本的な流れは以下の通りです。
・派遣業の基本的な流れ
1.派遣元がスタッフを派遣先に派遣
2.派遣先が派遣元に対して料金を支払う
3.派遣元がスタッフに給与を支払う
4.給与や社会保険料などのコストを差し引いた残りが派遣元の利益となる
5.派遣契約終了後(最長3年)はスタッフとの雇用契約も原則終了
より詳しく人材派遣業の定義や概要を、1つ1つ見ていきましょう。
定義
人材派遣の定義は、労働者派遣法で「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを業として行うこと」とされています。(※1)自己の雇用する労働者とは、派遣元が派遣先に派遣するために雇用しているスタッフを指します。つまり、人材派遣業は、スタッフにとって「雇用先」と「指揮命令下に置かれる、実際に働く会社」が別々であることが特徴となります。人材派遣業は、昭和61年(1986年)の労働者派遣法の施行まで、職業安定法第44条によって一部の例外を除いて全面的に禁止されていました。労働者派遣法の施行以後は、市場が大きく拡大。派遣社員の保護、キャリアアップを目的とした法改正も続いています。一方で記事の後半で解説する通り、様々な規制や法改正がマイナスに働いている側面も否めません。
派遣労働者の割合・推移
まず派遣労働者の割合や総数、市場規模などの概略は以下の通りです。
・全国の派遣労働者数:154万人
・労働者の総数に対する派遣労働者の割合:3%前後
・派遣業の市場規模:8兆6,209億円
2023年1~3月期の派遣社員数は154万人(※前年同期から16万人増)。(※2)
日本国内の雇用者全体に対して、派遣労働者が占める割合はおよそ3%です。(※2)全体に対する派遣労働者の割合は、2005年ごろから1.9%〜3%を前後しており大きな増減はありません。派遣労働者数の実数は、2000年から調査が開始されました。2000年時点の派遣労働者数は39万人。2004年の製造派遣の解禁を機に大きく労働者数が増加し、市場規模も拡大。2006年には派遣労働者数は121万人に達しました。なお日本人材派遣協会の調査によると、2020年度の人材派遣業の市場規模は8兆6,209億円(前年比+9.6%)で、派遣事業所の数も増加傾向。2020年度の事業所の総数は42,065か所で、前年度から約4,000か所増加しています。
派遣労働の禁止事項
派遣労働では、主に以下の2点が禁止事項として定められています。
・二重派遣の禁止
・専ら派遣の禁止
二重派遣の禁止は、他の企業で雇用されている労働者を派遣することの禁止。専ら派遣の禁止は、派遣先を特定の一社、もしくは複数社専属の派遣とすることを禁じるものです。
人材派遣業の変遷
人材派遣業の始まりは、昭和61年(1986年)の労働者派遣法の施行です。
労働者派遣法は社会の雇用動向の変化を鑑みて、施工後も定期的に緩和が続けられました。特に2004年の製造業務への人材派遣の解禁は影響が大きく、人材派遣の市場規模がさらに拡大するきっかけとなりました。一方で、2000年代後半からは派遣業に対する規制強化が続きます。きっかけはリーマンショックなどに端を発する通称「派遣切り」。派遣元に対して、派遣社員へのキャリアアップ支援が義務付けられるなど法改正が進みました。
2つの派遣形態の区分を廃止
近年行われた法改正の中でも、大きなトピックとなったのが「2つの派遣形態の区分廃止」です。2つの派遣形態とは「一般労働者派遣」と「特定労働者派遣」。「一般労働者派遣」と「特定労働者派遣」は、2015年の法改正で一本化されることが決定しました。一般労働者派遣は派遣業の主流な方式で、厚生労働大臣の「許可」が必要。登録社員のみ、もしくは登録社員と常用社員の混在により労働者派遣を行なう事業を指します。
特定労働者派遣は派遣元に常時雇用された労働者を派遣するもので、厚生労働大臣への「届出」が必要。派遣元にとっては、派遣期間が終わったとしても継続して給与を労働者に支払うことになる形式。特定労働者派遣が行われていた時期には、ITエンジニアなどが対象となる機会が多かった形の派遣労働です。特定労働者派遣は、2018年9月29日で正式に廃止。かつては「届出」だけでも派遣業を運営することが可能でしたが、一般労働者派遣への一本化によって全ての事業者が「許可制」となります。この法改正は、派遣社員の保護を重視する国の動きの一例と言えるでしょう。
人材派遣の種類
一般的に「人材派遣」と呼ばれる、派遣案件があるときに雇用関係を結ぶ働き方は「登録型派遣」に該当します。一方で人材派遣には、将来的に派遣先に正式雇用されることを前提とした「紹介予定派遣」という働き方もあります。両者の違いを見ていきましょう。
登録型派遣
登録型派遣とは、「6ヶ月間」など一定の期間を定めて派遣契約を結ぶものです。労働者は派遣元にあらかじめ登録し、案件の紹介を受け、就業が決定したら契約を締結。就業期間はあらかじめ決まっており、派遣期間が終了した時点で契約は終了します。しかし、派遣先から契約更新の打診があり、労働者が了承した場合は契約更新も都度都度可能です。ただし派遣には「3年ルール」があり、原則として同じ職場で働き続けられる上限期間は3年です。
紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、派遣先の正社員や契約社員になることを前提に一定期間の派遣契約を結ぶものです。派遣契約の終了後には派遣先と派遣スタッフの双方合意の元で、直接雇用に契約が切り替わります。紹介予定派遣と登録型派遣の、直接雇用を前提とした契約形態以外の大きな違いは2つ。
1つ目は「面接」です。
紹介予定派遣では、登録型派遣では禁止されている「派遣先企業による、派遣スタッフの面接」が可能です。
2つ目は「手数料」です。
紹介予定派遣では、派遣スタッフと派遣先の雇用契約が成立した際に手数料が発生します。派遣先企業が、派遣元に所定の手数料を支払います。
人材派遣と類似する業種との違い
人材派遣と混同されやすい業種に「人材紹介」や「請負」があります。人材派遣と人材紹介、請負の違いもまとめます。
人材紹介と派遣の違い
人材紹介と人材派遣の基本的な違いは「雇用主」です。人材派遣では、派遣元が労働者を雇用し、派遣先企業へと派遣します。一方、人材紹介では就業先の企業の直接雇用となります。派遣事業のデメリットは、「派遣元が労働者を雇用する」という点にあります。近年は法改正が進み、派遣労働者の保護を目的に、派遣元には「派遣社員のキャリアサポート」が義務付けられています。よって、労働者が増えれば増えるほど管理コストがかさんでいきます。
人材紹介業は、あくまで「採用の仲介」に特化しているため管理コストを低く抑えることが可能です。人材派遣業の利益率が低下する中で、人材業界の成長産業として注目されています。
請負と派遣の違い
人材派遣と請負の違いは「指揮命令関係」です。人材派遣では、派遣スタッフは派遣先の指揮命令下に置かれます。一方、請負は「発注者」と「請負企業」の二者間の契約であり、発注者が請負企業のスタッフに指揮命令をすることは許可されていません。
人材派遣業界の動向・市況
人材派遣業は人材業界の主要3ビジネス(人材派遣、人材紹介、再就職支援)の中で、もっとも大きな市場規模の業種です。2022年時点の人材派遣業、人材紹介業、再就職支援業の市場規模はそれぞれ以下の通りです。(※3)
・派遣業の市場規模:8兆8,600億円(前年度比7.6%増)
・人材紹介業の市場規模:3,510億円(同18.6%増)
・再就職支援業の市場規模:245億円(同23.7%減)
しかし、前述の通り、度重なる法改正により利益率が低下。一般社団法人 日本人材派遣業界のデータによると●年●月時点の人材派遣会社の利益率は、派遣社員の給与に対しておおよそ1.2%です。(※4)ここからは人材派遣業界の動向・市況を見ていきます。
人材派遣会社は利益率低下に直面
派遣社員の保護やキャリアサポートの義務化によって、人材派遣会社のランニングコストは上昇する可能性があります。加えて労働者の最低賃金の増加が全国的に続いたことから、派遣スタッフの給与の底値も上昇傾向。また2020年4月から大企業で導入された「同一労働同一賃金」制の影響も注視していく必要があるでしょう。同一労働同一賃金とは、「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差」を禁じるものであり、同じ労働内容であれば正規雇用・非正規雇用を問わずに同じ賃金にすると定めています。
「賃金」とは月々の給与だけでなく、賞与や退職金、福利厚生も含んでいます。派遣先企業にとっては、派遣社員に業務を依頼する金銭的メリットが薄らぐ可能性があり、派遣切りを懸念する声が上がっています。なお中小企業への制度導入は2021年4月にスタートしましたが、制度は全国にまだ浸透していないとみられます。2024年時点では「報告徴収の強化」が方針として掲げられたうえで、(※5)全国各地の知事が経済団体に対して制度運用を呼びかけるといった普及啓発が続いているのが現状です。(※6)
つまり「同一労働同一賃金の遵守の徹底」にはまだまだ全国的に課題があり、中小企業で「同一労働同一賃金」が本格的に適用された際に、派遣市場にどのような影響が出るかはまだ未知数の部分があります。
このように派遣スタッフの給与や管理コストが増加傾向にある中で、派遣業への監視や規制は強まっており、派遣業の売り上げは低下傾向にあります。(※4)
人材紹介業への新規参入が続く
派遣業者は、既に正社員として就職する可能性がある人材にリーチできる集客チャネルを保有しています。そうした人材と求人案件をマッチングさせることで、最小のリソースで人材紹介業に参入することが可能です。採用の仲介に特化することで管理コストを押し下げつつ、理論年収の30%〜35%の手数料を得ることができ、高い利益率の新規事業の立ち上げができます。
【人材ビジネス事業者向け】人材派遣業のメリット・デメリット
・既に人材派遣業を手掛けているが改めてビジネスモデルを見直したい
・人材紹介業や求人広告など他の人材ビジネスに取り組んでいるが、派遣業への展開も検討したい
といったケースもあるでしょう。最後に派遣業に取り組むメリット、デメリットをご紹介します。
派遣業に取り組むメリット
・国内の市場規模が8兆円(2023年時点)を超え、人材業界の最大のマーケットである
・事業所数も増加傾向にあり成長が見込めるマーケットである
・1名の派遣社員の稼働が最大で3年程度見込める
・紹介予定派遣など人材紹介と派遣を組み合わせたビジネスも展開できる
派遣業に取り組むデメリット
・同一労働同一賃金が全国的に普及した際の派遣業へ影響が生じる可能性がある
・派遣社員の人件費の増加に伴う「雇い止め」が生じるリスクがある
今後、派遣業に取り組む際は3年程度が経過したのちに「無期雇用」への転換が生じるケースがあるでしょう。この無期雇用への転換時に紹介手数料の支払いを求めるなど、派遣業は少しずつ「人材紹介+人材派遣」へとビジネスモデルの転換が求められつつあるかもしれません。
まとめ
今回は、人材派遣業の定義や市場動向、請負や人材紹介業との違いをまとめました。人材派遣業は人材業界の主要3ビジネスの中で最大規模の業種ですが、近年は利益率低下が課題となっていることも事実です。参入時は利益率や自社のリソースを踏まえた上で、ビジネスモデルや参入する市場などを見極めることがおすすめです。
(※1)第1 労働者派遣事業の意義等(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou/dl/1.pdf)(参照2024-10-01)
(※2)一般社団法人 日本人材派遣協会(https://www.jassa.or.jp/wp-content/uploads/2023/09/information_market_07.pdf#:~:text=*%20%E6%B4%BE%E9%81%A3%E7%A4%BE%E5%93%A1%20*%20154%20%E4%B8%87%E4%BA%BA%20*%203%)(参照2024-10-01)
(※3)株式会社矢野経済研究(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3371)(参照2024-10-01)
(※4)一般社団法人 日本人材派遣協会(https://www.jassa.or.jp/know/data/#section05)(参照2024-10-01)
(※5)打刻ファースト(https://www.ieyasu.co/media/ensure-compliance-with-equal-pay-for-equal-work/)(参照2024-10-01)
(※6)8OHK(https://www.ohk.co.jp/data/26-20240610-00000017/pages/)(参照2024-10-01)
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