人材紹介業の歴史まとめ – 「これまで」と「これから」や技術革新の可能性
今回は「人材紹介業の歴史」について解説します。
日本国内では江戸時代から「慶庵(けいあん)」「口入れ屋」などとよばれる職業斡旋事業者は存在していました。しかし民間の事業者が自由に参入できる市場ではなく、1999年の職業安定法改正前まで新規参入自体が難しい状況が続きました。
つまり実質的に、日本の人材紹介業は「20年余り」の歴史しかまだありません。特に2010年代からは人材紹介のマーケットは大きく拡大。さらなる成長が期待されるマーケットの歴史と今後を1つ1つ見ていきましょう。
人材紹介業の歴史(1999年まで)
人材紹介業の起源については諸説あるものの、江戸時代の「慶庵(けいあん)」「口入れ屋」を「職業斡旋」の原型とすることが多いです。明治維新後もこれらの職業あっせん機関は、私設の紹介事業者として機能しました。
職業紹介事業について、公的な制限がかけられるようになったのは1900年代に突入してから。特に1919年のILO条約(※日本は1922年に批准)では、営利職業紹介の禁止が明文化。1938年に改正さ れた職業紹介法 2 条では『何人ト雖モ職業紹介事業ヲ行フコトヲ得ズ』との文言が織り込まれ、営利目的の職業紹介事業への規制は一層厳しくなりました。
国内での営利目的の職業紹介が厳しく制限された背景は、明治時代~大正時代の職業紹介事業のあり方。当時の職業紹介事業は労働者を誘拐して、工場に斡旋して利益を得るといった詐欺と暴力が横行することがまかり通っていたのが実情でした。
長い年月をかけて労働市場が徐々にクリーン化していくなかでも、「有料職業紹介事業の規制が大きく緩和される」にはさらに時間を要しました。人材紹介業に対する厳しい制限の影響は1990年代まで尾を引きました。
1999年の職業安定法改正
大きな転機が訪れたのは、1999年です。
1999年以前の有料職業紹介事業は一部特定の専門職以外は禁止されており、1970年代ごろから一部のグローバルファームやヘッドハンティング事業者が寡占していた状況。ところが1999年に職業安定法が改正され、民間事業者による営利目的の職業紹介が実質的に解禁。
2004年にも大幅な規制緩和が実施され、2021年現在でも比較的早いペースで許認可申請の要件の見直しと緩和が続いています。
1999年、2004年の人材紹介業の規制緩和にいち早く反応したのはリクルートやインテリジェンス(※現:パーソルキャリア)。企業担当(リクルーティングアドバイザー)と転職候補者担当(キャリアカウンセラー)の分業化による転職支援が広がりだしたのも、1999年~2000年代前半にかけてです。2007年10月~3月期には、国内の人材紹介実績数は当時のピークに達します。
リーマン・ショック(2008年9月)
1999年、2004年の規制緩和によって右肩上がりに市場規模を拡大した人材ビジネス事業者に大きなダメージを与えたのが2008年「リーマン・ショック」。
アメリカで低所得者向けの住宅ローンを手掛けていたリーマン・ブラザーズが、ローンの貸し倒れの続出によって経営悪化。同社は2008年9月に経営破綻し、連鎖的に世界規模の金融危機が発生しました。
人材ビジネス事業者にとっても、リーマン・ショックの影響は甚大。人材大手3社の転職紹介実績の推移は、2009 年4~9 月期は直近のピーク時である 2007年10~3 月期に比べて、44%にまで落ち込みます。
リーマン・ショック前の水準に転職市場が回復するには、経済情勢の好転を待つ必要があり、4年以上の月日を要しました。
HRTechの台頭と人材紹介業界の急速な発展(2012年以降)
経済情勢の好転に伴い、2012年ごろから徐々にマーケットが回復。2014 年に入ると、伸びはより顕著になります。
この時期に台頭し始め、大きなトレンドとなったのが「HRTech」。
AI(人工知能)やビッグデータ、クラウドといった先進技術と「採用」「人事管理」といった人事業務を掛け合わせて効率化する技術に注目が集まります。
HRTechの台頭と人材ビジネスのマーケット拡大を象徴する出来事が、2012年のリクルートホールディングスによる「Indeed」買収。買収額は約10億ドル(約1130億円)。
Indeedの買収前の時点で、リクルートホールディングスの海外売上高比率は3%(※2012年3月期)でした。リクルートホールディングスの買収後、Indeedは求人検索エンジンとして一層拡大。世界60カ国以上で利用され、月間ユーザー数は2億5000万人に伸長。2021年3月期で、同社の海外売上高比率は45%にも上ります。
許認可申請規定の見直しが進む
人材ビジネス事業者にとって長らく新規参入の壁となっていたのが、有料職業紹介の免許を取得する際に必要な「事務所要件」でした。
有料職業紹介の許認可申請におけるオフィス要件は、2017年に大幅に改正。具体的には、以下の要件を満たしていればレンタルオフィスやシェアオフィス、SOHOなどでも免許取得が可能となりました。
1.職業紹介の適正な実施に必要な構造・設備(個室の設置、パーティション等での区分)を有すること。
2.他の求職者又は求人者と同室にならずに対面の職業紹介を行うことができるような措置(予約制、貸部屋の確保等)を講ずること。
3.面談スペースと執務スペースもそれぞれ個人情報が守れる構造になっていること
オフィス要件の緩和と最新の基準は、以下の記事で解説しています。
人材紹介業界の今後
人材紹介業の、想定される今後のトレンドを2つ紹介します。
なおより詳細な市場規模のデータなどをチェックしたい方は、こちらの記事もお目通しください。
派遣会社や求人広告代理店の「人材紹介業」への進出
人材派遣会社や求人広告代理店の、人材紹介業への進出が続くことが予測されます。理由は「利益率」。
人材派遣業の派遣手数料は、派遣スタッフの給与に対して30%程度。30%の手数料から、保険料などの支払いを行うと、派遣業の営業利益は1.2%程度となります(参照元:日本人材派遣協会)。
一方で、人材紹介業は年収の30%が業界平均の採用フィーです。仮に500万円の人が入社すれば、150万円の売上。ちなみに人材紹介マガジンの検証では、Indeedを使った求職者集客では応募単価は1万円~1万5000円で推移しています。
求人データベースサービスを活用することでも、求職者集客コストも法人営業コストも押し下げることが可能です。
人材派遣業や求人広告代理店よりも、1マッチングの成立時の売り上げが大きいことから、人材領域でのビジネスを横展開して自社の収益体質の改善を図る事業者が増加していくと予測されます。
M&Aによる業界再編の可能性も
国内の転職市場は中長期的に見ると、労働力人口の縮小が避けられません。少子高齢化により人口ピラミッドが変化。一般的に企業が採用に積極的な20代~30代の働き手が減少していくためです。転職希望者の総数と採用ニーズに対して、人材紹介会社が供給過多になる可能性が否めません。
そうした状況を避けるため、今後、戦略的なM&Aによる業界再編が進む可能性もあります。
「業界再編」と書くとネガティブなことのようですが、人口ピラミッドの劇的な変化は今後10年~20年というスパンの中で起きることです。また海外人材のマッチングなど、労働力人口を補うソリューションにも様々なものがあります。
業界再編が予測される市場では、企業の買収も積極化します。「早期のバイアウトを目指して人材紹介分野で起業する」といった選択をすることも面白い一手ではないでしょうか。
コロナ禍の影響は?
近年、人材紹介分野に大きな影響を与えた出来事が新型コロナウイルスの感染拡大です。とはいえ、結論から言うと影響幅は大きいものの「リーマン・ショック時」ほどではありません
人材紹介分野へのコロナの影響は、こちらの記事で詳しく解説しています。
人材紹介業でこれから期待されるイノベーション(技術革新)
人材紹介業でこれから期待されるイノベーションには、AI(人工知能)を活用した求職者と求人者のマッチング自動化や早期退職リスクの軽減があります。
マッチング業務は2000年代前半からCAとRAが人力で行っているのが現状です。経験豊富な担当者によるマッチングには一定の精度が期待されるものの、人件費が高騰する原因にもなりやすいです。
AIによってマッチングをある程度まで自動化し、実際の面談のみを担当者が直接担当するといった「AIと人間の業務の棲み分け」が進む可能性は大きいです。
人材紹介業をこれから立ち上げる際のチェックポイント
人材紹介業をこれから立ち上げる際は、新規参入リスクを慎重に見積もった上でビジネスプランを練ることをおすすめします。
人材紹介業の立ち上げには、許認可取得やCA、RAの育成などコストがかかります。またビジネスモデルとして「エージェントごとの差異が出しづらい」という弱点もあります。
人材紹介マガジンを運営するagent bankでは、人材紹介業の立ち上げ支援を行っています。立ち上げを検討している方は、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
人材紹介業の歴史を江戸時代から遡り、今後の将来性や大きなトレンドも解説しました。人材紹介業は1999年の規制緩和から「新たな歴史が始まった」市場といえ、規制緩和からの歴史は20年程度です。今後の更なる発展が期待されます。
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