【2020〜2021年最新版】人材派遣業の今後と将来性を解説
今回は人材派遣業の今後と将来性について、新型コロナウイルス感染拡大の影響などを踏まえた「短期的な視点」と、中長期的な展望の両面から考察していきます。
【2020〜2021年最新版】人材派遣業の今後と将来性
まずは人材派遣業の市場規模の推移や、新型コロナウイルスの感染拡大の影響の大きさなどについて1つ1つみていきます。
人材派遣業の市場規模の推移
人材派遣業の始まりは、1986年の労働者派遣法施行に遡ります。
人材派遣業の市場規模が大きく拡大するきっかけとなったのは、2004年3月の製造業の派遣解禁。2004年度の派遣売上高が2兆8615億円であるのに対し、翌2005年度は4兆351億円へと急拡大。
2008年のリーマンショック前には、派遣売上高が過去最高となる7兆7892億円まで拡大しました。
一方、世界金融危機をきっかけに「派遣切り」も続出。2010年度には派遣売上高は5兆3468億円へと縮小。
その後数年かけ、派遣売上高は徐々に回復。2018年度の派遣売上高は、6兆3,816億円となっています。
人材業界の市場規模については、こちらの記事でより詳しく解説しています。
派遣業の売上高を分析する際に重要なことは売上高だけでなく「利益率」も併せて考えることです。
人材派遣業のマージン率は、派遣労働者の給与のおよそ30%が相場。
しかし、派遣元企業はマージンとして徴収した金額の中から社会保険料の支払いや派遣会社社員の給与や諸経費の支払いを行なっています。
記事の後半で解説する通り、人材派遣会社の収益性は低下傾向。2020年現在、10%以上の利益率がある派遣業者は極めて珍しいとも言われています。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、雇用形態を問わず「同じ職場で同じ業務をしている労働者に対して、不合理な待遇差を設けること」を禁止するものです。
待遇差には賃金の他にも、会社の福利厚生などが含まれます。
2020年に働き方改革関連法の一環として、大企業を対象に「同一労働同一賃金」制度がスタート。派遣労働者の待遇改善に繋がると期待する声がある一方で、派遣社員の賃金引き上げが「派遣切り」に繋がると懸念する声も少なくありません。
派遣元企業が派遣社員の賃金アップ分を、派遣先企業に請求する場合、派遣先企業にとっては手数料が上昇するのみでメリットがないためです。
同一労働同一賃金制度は、2021年から中小企業にも適用される予定です。2021年以降の派遣市場の動向にも注目です。
新型コロナウイルス感染拡大の人材派遣業への影響
2020〜2021年の人材派遣業界の動向と今後について考える際、避けて通れないのが新型コロナウイルス感染拡大の影響です。
コロナ禍における人材派遣業の動向と今後についても、見ていきましょう。
【前提】人材派遣業は景気動向の影響を受けやすい
人材派遣業は、景気動向の影響を受けやすい業種です。好況時には各社の採用意欲は旺盛で、正社員・派遣社員共に積極的な求人が行われます。
一方で、不況時には採用意欲が減退し、内定取り消しや派遣切りなどが起きやすくなります。
前述の通り、人材派遣業は製造業派遣の解禁を追い風に、2008年のリーマンショック直前まで市場拡大を続けていました。
しかしリーマンショック後には、市場規模が3割程度縮小。縮小した派遣業の売上高が、再び上昇傾向を示すまでには数年の時間を要しました。
有効求人倍率の低下
新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の発令を機に、国内の有効求人倍率は右肩下がりとなっています。
2020年1月には1.07倍だった正社員有効求人倍率(※)は、2020年4月には0.98倍へと下降。2017年4月には1.46倍を記録するなど、日本の転職市場は長く「売り手市場」の状態が続いていました。
しかし、コロナ禍で市場の様相は一変。2020年冬の時点では求人数が減少し、転職難易度が高い「買い手市場」の状態だと言えます。
有効求人倍率についてはこちらの記事でも、より詳しくまとめています。
(※)「正社員の有効求人倍率」は、分母となる求職者数に派遣労働者や契約社員を希望する者も含まれます。
飲食業、小売業、イベント業の採用ニーズ減退が顕著
飲食業や宿泊業、小売業、イベント業などコロナ禍の外出自粛の影響が顕著に現れた業種では、採用ニーズも減退しています。
「宿泊業、飲食サービス業」の休業者数は79万人(20年5月)。この数値は、19年12月と比較して7倍超となっています。(※1)
リーマンショック時には製造業の派遣切りが増加。雇用の受け皿として機能したのが、飲食業や宿泊業でした。
コロナ禍ではリーマンショック時に雇用の受け皿となった業種が打撃を受けている状況です。宿泊業や飲食業で職を失った人々の、雇用の受け皿をどのように用意できるのか。官民一体となった対策が求められます。
医療や物流は採用ニーズが大きい
医療や物流の分野では、人材の需要が増加しています。
看護師など医療関係の職種は慢性的な人手不足が続いていることに加え、コロナ禍において各医療機関が病床の確保や患者のケアに追われていることが要員として挙げられます。
また外出自粛の影響で、通信販売の需要が増加しているため、物流分野の採用ニーズも旺盛です。
人材派遣業の将来性・中長期的な展望
ここからは中長期的な展望に基づき、人材派遣業の将来性について1つ1つ見ていきます。
「人余りの業界から人手不足の業界への労働力の移動」が課題
ダイヤモンド・オンラインの記事にて「失業者の増加と人手不足が併存する時代が到来する」と述べています。
「これまで職業訓練などに取り組んできたものの、スムーズにはいかなかった。この状況下で、人の流れをつくるのはなおさら難しい。(建設や介護など)人手不足の業界は人手不足のままになる」(小林氏)。
引用元:ダイヤモンド・オンライン
コロナ禍の中でも、医療や物流、またITエンジニアや幹部クラスのハイクラス人材など求人企業の採用意欲が大きな職種・業種は存在します。
ただし、医療であれば「看護の実務経験」。ITエンジニアであれば「プログラミングスキル」など、いずれも専門性が高く実務経験が重視される職種であることも事実です。
つまり飲食業や宿泊業、小売業など大幅な人員削減が予測される業界の労働力を「人手不足の業界」に移動させることは簡単ではありません。
職業訓練など労働者のスキルを育成する仕組みもないわけではありませんが、職業訓練を受けた人材が即時に実務レベルの業務スキルを得られるとも限らないのが現実です。
加えて、近年は最低時給が上昇傾向。また「同一労働同一賃金」など正社員と派遣労働者の待遇格差に対する規制が強化されています。
派遣労働者に求められるスキルや実務経験のハードルも高くなっており「人余りの業界は人余りのまま、人手不足の業界は人手不足のまま」という二極化が進む可能性があります。
業種をまたぐ労働力の移動をどのように実現させていくかは、人材派遣業にとって中長期的に見て非常に大きな課題となるでしょう。
利益率のさらなる低下
一般社団法人 日本人材派遣業界のデータでは、人材派遣会社のマージン(手数料)のうち「営業利益」のわずか1.2%です。
人材派遣会社のマージンの料率は、派遣社員の給与に対して30%程度が目安。
30%のマージンの中から、派遣元企業は派遣社員の社会保険料や諸経費の支払いを行います。経費には派遣元企業の社員の給与も含まれます。
受け取ったマージンから社会保険料や経費を差し引くと、派遣元企業の営業利益は派遣社員の給与に対して1.2%程度となります。派遣会社の利益率は、他業種と比較しても極めて低いと言えるでしょう。
社会保険料は年々上昇傾向にあり、なおかつ派遣元企業には派遣社員の教育義務が新たに生じます。
そのため、今後派遣元企業の利益率はさらに低下していく可能性があります。人材派遣事業者にとっては、事業の多角化などを通じ、事業の収益性を高めていくことも重要です。
事業の多角化の一例としては、派遣業者の人材紹介業への参入が挙げられます。
派遣業から人材紹介業に参入する企業が増えている理由は、こちらの記事で解説しています。
不況時は事業の構造の見直しタイミング
人材業界にとって、不況時は事業の構造の見直しのタイミングとも言えます。
実はリーマンショック直後に起業したり、自社の事業構造を大きく見直すことで成長を遂げた人材企業も数多く存在します。
まとめ
人材派遣業の今後と将来性を、新型コロナウイルスの影響などを含めた短期的な視点と中長期的な展望それぞれに基づき解説しました。
人材派遣業は、人材業界の主要3業種のなかでもっとも売上高が多い業種です。しかし営業利益率は、収益源であるマージンに対して1.2%程度。非常に収益性が低い業種であることも特徴です。
人材派遣業の今後や将来性について考えるときは、ぜひ事業の多角化も含め、柔軟に検討してみてください。
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