人材派遣業は個人事業主でも開業・起業できる?許可要件まとめ
「人材派遣事業を個人として起業したい」と思っても
- 具体的に何をすればいいのか分からない
- そもそも、人材派遣業は個人で開業できるのか
と悩んでいませんか。
今回は、人材派遣業を個人として開業するための要件や「そもそも、人材派遣業は個人で開業すべきか」をまとめました。
人材派遣業は個人でも開業できる?
人材派遣業の開業には、一般的な会社設立の登記手続きに加えて、都道府県労働局への許可申請が必要です。
そして、派遣業の開業許可を得るためには以下のような要件を満たしている必要があります。
- 基準資産額(資産ー負債)2,000万円以上
- おおよそ20㎡以上の広さの事務所
- 派遣元責任者の資格
- 派遣労働者の教育・訓練の制度
これらの要件はいずれもハードルが高く、クリアすることは簡単ではありません。
もしも人材業界での開業に関心がある場合、より開業の敷居が低い「人材紹介業」の開業を視野に入れることも検討すると良いでしょう。
人材紹介と人材派遣の違いは、こちらの記事でまとめています。
派遣業務を開業するための許可要件
以前の法律では、派遣事業は「特定労働者派遣事業」と「一般労働者派遣事業」に分かれていました。
特定労働者派遣事業は「届出制」で運営可能な派遣事業であり、資産などに関する要件がほとんどなく、比較的緩い条件での開業ができました。
しかし、2015年の派遣法改正に伴い、特定労働者派遣事業は「一般労働者派遣事業」に一本化されることが決定。2020年現在、派遣事業は許可制であり、許可要件は高いものに設定されています。
より詳しく、1つ1つの項目を見ていきましょう。
基準資産額
まず人材派遣事業の立ち上げには、2,000万円以上の基準資産額が求められます。
なおかつ、資産の内訳として以下も求められます。
- 資産のうち、1,500万円以上が現金であること
- 「資産-負債」が負債総額の7分の1以上
基準資産額をクリアするためには、まず賃借対照表の「資産ー負債」が2,000万円以上。加えて「資産」のうち「現金」「預金」の合計額が1500万円以上。
そして「資産ー負債」の数値が、「負債」の7分の1以上になっていれば、要件を満たします。
資産要件を満たしていない場合には、増資などを検討する必要があります。
事務所要件
事務所設置の条件は下記の通りです。
1.風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)で規制する風俗営業や性風俗特殊営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと。
2.事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること。(厚生労働省の規定より)
また事業所内にキャリアコンサルティング向けの面談スペースを設ける必要もあります。
派遣元責任者の資格
「派遣元責任者」とは派遣労働者の雇用管理を行い、適切な環境で業務を遂行できるように保護する担当者を指します。
派遣元責任者は派遣元管理台帳を作成し、派遣労働者の氏名や派遣先、就業条件などの管理を行います。
派遣労働者と派遣先の企業の間でトラブルが起きた際に、必要に応じてアドバイスなどをしたり、仲介役として問題解決に当たります。
派遣元責任者の資格を取得するには、一定の雇用管理経験に加えて「派遣元責任者講習」の受講が必要です。
派遣労働者の教育・訓練に関する制度の整備
2015年の派遣法改正で、派遣元企業には派遣労働者に対する教育訓練の機会提供が義務付けられました。
教育訓練の体制整備の目的は、派遣労働者のキャリアアップ。入職時の教育訓練や、キャリアの節目ごとの研修などを行う必要があります。
キャリアコンサルティングの知見があるスタッフを用意した上で、派遣労働者本人の意向を踏まえ、OJTや研修、eラーニングなどを通じた教育訓練が可能な仕組みを整えていく必要があります。
その他欠格事由がないこと
上に挙げた項目以外にも、個人情報の管理など様々な許可要件が定められています。
要件を満たさずに許可申請を行うと、再度許可要件の確認とともに再申請が必要となります。申請にも登録免許税がかかるため、再申請の手間を最小に抑えられるように意識しましょう。
人材派遣業は個人でも開業可能
人材派遣業の開業は、個人でも可能です。個人事業主として開業する場合も、会社設立とほぼ同様の手続きが必要となります。
ただし「資産要件の見方」は法人と個人で異なり、個人事業主で開業する場合は基準資産額を確定申告書ベースで算出することになります。
事業所だけでなく「代表者の自宅」に実地調査が入るケースもあります。
多くの場合で個人事業主の人材派遣業の開業は、資産要件の緩和措置の対象となりますが、緩和措置の適用には「事業所の数が1つであること」という前提があります。
個人事業主の場合、自宅を事業所として活用するケースが多いため「事務所」「自宅」という2つのオフィスを構えていないかチェックが入ることがあるのです。代表者が自宅を、純粋に「自宅」として使用している分には問題ありません。
小規模派遣元事業主への配慮措置
前述した「資産要件の緩和措置」とは、小規模派遣元事業主への配慮措置を指します。
法人、個人を問わず「事業所の数が1つのみ」「常時雇用している派遣労働者数が10人以下」の事業主は、求められる基準資産額が1000万円以上へと緩和されます。
資産要件が大幅に緩和されるため、これから人材派遣業を開業したい方は配慮措置の適用を受けることを念頭に置くと良いでしょう。
人材派遣業は儲かるのか?
人材派遣業の開業の敷居は高いと、記事の前半で述べました。
緩和措置の適用を受けたとしても、1,000万円の基準資産額を満たしつつオフィス要件も満たすことは簡単ではありません。
これから人材派遣業の開業を検討する方は、人材派遣業が「高い基準資産額に見合う、高い収益性が見込める業種なのか」が気になるでしょう。
人材派遣業の収益性について解説します。
人材派遣業の利益率
大手人材派遣会社のマージン(手数料)は、派遣社員に支払われる給与の20%~30%と言われています。
そして派遣会社はマージン(手数料)から、派遣社員の社会保険料や有給分の賃金、諸経費の支払いなどを行なっています。
つまり、派遣会社のマージンと「利益率」は一致しません。
一般社団法人 日本人材派遣業界のデータでは人材派遣会社のマージンのうち「営業利益」に当たる割合はわずか1.2%に過ぎません。
10%以上の利益率がある人材派遣会社は、2020年現在、ほぼ無い状態と言っても過言では無いでしょう。
人材派遣業から人材紹介業への参入が続く
近年、人材派遣会社による人材紹介事業の立ち上げ事例が増えています。
派遣会社による人材紹介業立ち上げ増加の理由は「人材派遣業の利益率低下」です。
2008年のリーマンショックを機に多くの企業が人材関連の予算を削減。派遣会社に支払われる金額の相場が大きく低下しました。
加えて派遣法の改正により、同じ職場・同じ部署で働くことができる期間を3年までと定める「3年ルール」が導入されるなど派遣社員の無期雇用への転換の機運が社会的に高まっています。
また、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大の影響も無視できません。
各社の業績が悪化する中で、人件費の高騰や派遣社員の無期雇用への転換を避けたい各社による、派遣社員の雇い止めが続く可能性も指摘されており、新たな収益源として人材紹介業への参入例が増えているのです。
こちらの記事では、人材派遣業から人材紹介業への参入が増えている理由についてより詳しく解説しています。
許可申請の流れ
人材派遣業を開業する際の手順は、大まかに以下の通りです。
- 派遣元責任者講習を受講する
- 増資などによって資産要件をクリアする
- 労働局に許可申請を行う
派遣元責任者講習の資格を取得した上で、資産要件を満たすことができれば、あとは労働局に許可申請を行うだけです。
許可申請を行うと、労働局の書類審査に加え、事務所要件などの確認を目的とした「現地調査」が行われます。立入検査にかかる時間なども含めると、許可申請から免許発行までにはおおよそ2ヶ月近く時間を要します。
許可が下りず、再申請が必要な場合は、繰り返し同様の手順を踏む必要があります。
許可申請に不安がある方は、専門家である社会保険労務士に書類作成や申請を依頼することを検討するのも良いでしょう。
人材派遣業は「個人」で開業すべきか?
最後に「人材派遣業は個人で開業すべきか」を解説します。資産要件を満たすために増資や借り入れなどを検討する場合に、注意すべき点にも触れています。
開業の許可要件をどのようにクリアすべきか
人材派遣業を個人で開業する場合、最大のネックとなりやすいのが基準資産額。緩和措置を受けた場合でも1,000万以上の資産が必要となります。
借り入れなどを一切行わず、自らの純粋な資産のみで「1,000万以上」の基準資産額を即時にクリアできる方は多くないでしょう。多くの場合、借り入れが必要となるのでは無いでしょうか。
この場合、後述するようにできれば「法人」としての開業がおすすめです。
特段の理由がなければ「法人」としての開業がおすすめ
資産要件をクリアするため、金融機関などから借り入れをする際に注意すべき点は「名義」です。
法人として人材派遣業を開業する場合、法人名義で借り入れを行うと、借り入れた金額は「負債」となります。個人事業主として開業し、個人名義で借り入れを行なった場合も同様です。
つまり、資産要件を満たすために借り入れを行うならば「個人名義で借り入れ、増資扱いとして会社に投資する」形が良いでしょう。
個人の資産と法人の資産は別物として計上されるため、上記の方法であれば借り入れによって資産要件を満たすことが可能です。
人材紹介業の開業も検討すべき
人材派遣業の許可の要件が厳しく設定されている理由は、労働者の雇用形態にあります。
派遣業では派遣元の企業が派遣労働者の雇用主となり、多くの「社員」を抱えることになるため、免許取得の敷居が高いのです。
そのため、同じ人材業界の事業でも「求職者(個人)」と「求人者(企業)」のマッチングに特化する人材紹介業は、免許取得ハードルが低いです。
たとえば、人材紹介業の開業時の資産要件は最低500万円。人材派遣業の資産要件と比較すると、4分の1の金額で事業を立ち上げることが可能です。
オフィス要件も緩和されており、2020年現在、人材紹介業はレンタルオフィスやシェアオフィスで開業することが可能です。
加えて、人材派遣会社が人材紹介業に参入する例が続いている通り、利益率の高さも魅力です。「人材紹介業は儲かるのか」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
まとめ
人材派遣業は個人事業主でも開業できるのか、1つ1つ解説しました。
結論としては「個人でも開業は可能だが、免許取得のハードルは非常に高い」というもの。また免許を取得できたとしても、一部のデータでは利益率が1.2%。10%以上の利益率の派遣会社はごくごくわずかです。
これから人材ビジネスへの参入を検討している方は、より参入要件が低く、利益率が高い人材紹介業への参入も検討してみてください。
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