

今回は、混同されやすい「派遣」「業務委託」「請負」の違いやそれぞれの雇用形態のメリット・デメリットなどについて解説します。
求職者集客や、求職者(個人)との契約時に留意すべきことなどをまとめました。
また、人材ビジネスへの新規参入を視野に入れており「派遣に参入するべきか」「フリーランス人材をターゲットに事業を立ち上げるべきか」などを検討する際に、本記事をお役立てください。
派遣と業務委託、請負はいずれも「企業が外部の労働資源を活用するための、人材獲得手段」の一種として位置付けられます。
いずれも安定したスキルを持つ外部の労働資源を、固定費ではなく「変動費」として活用できることが大きなメリットです。
ただし、派遣・業務委託・請負はいずれも「その手段を用いて人材を登用する目的」が大きく異なります。
派遣契約とは、外部の派遣社員を自社の労働に従事させることを目的とする契約形態です。
派遣先企業は、契約を結んだ派遣会社から人材を派遣してもらい、自社の指揮命令下に該当のスタッフを配置します。
後述する「業務委託」とは、以下のような点に置いて相対する形態です。
派遣 | 業務委託 | |
クライアント企業による指揮命令の可否 | 可能 | 不可 |
業務に対する責任の所在 | 派遣先企業 | 業務委託先の法人・個人 |
成果物等の完成責任 | なし | 案件による |
人材派遣の基本的なビジネスモデルは、派遣社員の給与から派遣手数料を差し引くもの。派遣手数料(マージン)の相場は、派遣社員の給与に対して30%前後となります。
派遣会社の売上は、派遣社員の給与(単価)と人数に依存します。よって派遣会社が事業規模を拡大していくには、人月単価の「人数」の母数を増やすか「単価」を引き上げるかをつどつど判断していく必要があります。
派遣会社のビジネスモデルや立ち上げ方、将来性などはこちらの記事にまとめています。
業務委託とは、自社と委託先の法人(もしくは個人)がプロジェクトごとに業務委託契約を締結し「その業務を遂行すること」を目的とするものです。
請負契約や準委任契約、準委任契約の1つであるSESなどは、広義ではいずれも「業務委託契約」の1つです。
なお業務委託契約における「業務の遂行」の定義は広く、「完成物の納品」を求められるケースもあれば、完成物の納品を求めず「業務の委託そのもの」を目的化することもあります。
プロジェクトの目的や、自社と委託先の関係値によっても契約内容が大きく変わることが多いです。
業務委託契約の主だったビジネスモデルは「請負」と「フリーランス人材の紹介」に分かれます。
請負は、業務委託契約の中でも「完成物の納品」を保証するものです。詳しくは後述します。
フリーランス人材の紹介は、変動費によるハイスキル人材の活用ニーズが拡大する中で注目され始めている形態です。
案件を求めるフリーランス人材とハイスキル人材を変動費で活用した法人を、フリーランス案件に強みを持つ人材紹介会社が仲介。
マッチング成立時に、法人から人材紹介会社に規定の紹介手数料が振り込まれる形です。
この他にも「委託先の個人事業主(フリーランス)を活用したSES事業」など、様々なビジネスモデルが存在します。
請負とは、業務委託契約の中でも「完成物の納品」を約する契約形態です。注文者の発注に対して、請負者は完成物の納品を約束し、納品を持って報酬が支払われる形です。
・原則として、完成物の納品が行われない限り報酬は支払われない
・業務委託契約のため、発注者による指揮命令は不可
・成果物に対して、請負者は瑕疵担保責任を負う
といった特徴が存在します。
請負のビジネスモデルを解説する際に、よく例に挙げられるのはITシステム開発です。
ITシステム開発の場合、要件定義を行い、仕様書を用意するのは発注主。仕様書通りにシステムのコーディングを行うのは請負者です。
そして納品されたシステムを検証し、仕様書と異なる箇所や実用に耐えない深刻なバグなどが発見された際には請負者が瑕疵担保責任を負います。
具体的には、契約(仕様書)に含まれている品質・性能を担保するまで無償でのバグ修正を実施。どうしても品質を担保できない場合には、賠償責任が発生するケースもあります。
なお、請負と類似した契約形態として挙げられるのが「準委任契約」です。ITシステム開発分野における準委任契約は「SES」と呼ばれます。
準委任契約およびSESと、請負の違いは「完成物の納品を約するか」「労働力の提供そのものを目的とするか」です。
請負もSESもIT業界では一般的な業態であり、プロジェクトの目的などによって契約形態が使い分けられています。
各契約形態のメリット・デメリットは以下の通りです。
派遣契約のメリットは、派遣先企業が自社の指揮命令下に派遣社員を置くことができることです。
変動費で活用可能な一定以上のスキルを持つ人材を、自社の指揮命令下に置いてディレクションできることは大きなメリットでしょう。
派遣契約のデメリットは、年々続く派遣法改正によるコスト増。派遣法改正によって「同一労働同一賃金」制がスタート。同じ労働内容であれば正社員と派遣社員の間に、不当な賃金格差を設けることが禁止されました。
また派遣元企業に対しては、派遣社員に対する教育機会の提供などが義務付けられています。
法改正によって、派遣社員自身は待遇改善を実現しているものの、派遣先企業と派遣元企業にとっては「派遣社員を雇うコスト面でのメリットが薄い」「派遣社員の教育費用が高くなる」などのデメリットが小さくなく、派遣切りの続出を予測する声も小さくはありません。
業務委託のメリットは、発注主にとっても委託先にとっても柔軟性が高い契約形態であることです。
例えば、法人同士が業務委託契約を結ぶ場合、完成物の納品を約する場合は「請負」。そうではない場合は「準委任契約」にするなど柔軟性が高い契約が可能。
法人と個人が業務委託契約を結ぶ場合も「完成物の納品を約するか、そうでないか」「報酬は時給制にするか、月額制にするか」など、プロジェクトの性格によって柔軟な契約を実現可能です。
デメリットは、指揮命令権の有無。発注主にとっては業務委託先はあくまで「外部」のため、業務の進め方等に対する命令権を持つことはできません。
請負のメリットは、契約の「分かりやすさ」にあります。契約時に定めた要件に沿って納品が行われれば報酬が発生し、そうではない場合は瑕疵担保責任が発生するというシンプルな契約を行うことができます。
請負のデメリットは、「契約時に予期しきれないトラブルが発生するケースもあること」および「瑕疵担保責任が生じる期間」です。
例えばITシステム開発の場合、あまりにも長期に瑕疵担保責任が及ぶ場合「技術の変化に伴う、エラーやバグの発生リスクを見積もる必要がある」という事態になりかねません。
現実的には、テクノロジーの進歩やそれに伴う古いライブラリのサポート終了などを正確に見積もることは極めて難しいです。
請負契約が適しないプロジェクトも少なくなく、そうした場合には「準委任契約」「SES契約」などの形で案件を進めることが望ましいでしょう。
派遣・業務委託・請負に適した業務の例を表にまとめました。
形態 | 最適な業務の概要 | 具体例 |
派遣 | 現場の社員が直接指示を出す必要がある業務や、外注が禁止されている業務 | 事務業務や金融関連の業務など |
業務委託 | 新規事業の立ち上げなどスピード感が求められる業務や、社内で育成コストを割くことが難しい状況での労働力確保 | 新規事業立ち上げや、自社サービス開発など専門的な知見が必要かつ教育コストが大きいもの |
請負 | 瑕疵担保責任を明確にすべき業務 | 高度なセキュア開発が必要なITシステム開発など |
派遣は現場社員が直接指示をする必要がある業務や、高度な個人情報の取り扱いが必要になるなど「現実的に外注が難しい業務」に適しています。事務作業や、金融や保険関連の業務で派遣が登用されるケースも多いです。
業務委託は「外注」です。スピード感を重視したプロジェクト運営が必要な局面で重用されるケースが多いです。また高度な知見が求められるものの現実的に自社で育成コストを割くことができないケースも業務委託がよく活用されます。新規サービス立ち上げなどに適しています。
請負は「瑕疵担保責任」が重要な論点。「完成物の納品」が条件となるため、瑕疵があれば請負者は責任を負います。高度なセキュア開発が必要なシステム開発などに適しています。
続いて、派遣や業務委託など各雇用形態・契約形態と関連するビジネスモデルの将来性について解説します。
2021年時点で、派遣業は国内の人材ビジネス業界でもっとも大きな市場シェアを占めています。
一方で新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化の影響は、2021年以降に色濃く派遣業界にも現れてくることが予測されます。
派遣業の将来性については、こちらの記事でより詳しく紹介しています。
正社員有効求人倍率が低下傾向にある中で、注目されているのがフリーランス人材の活用です。
その理由には、新型コロナウイルスの感染拡大下でもITエンジニアなど「ハイクラス人材」の有効求人倍率は比較的堅調に推移したことが挙げられます。
また多くの企業で副業が解禁されたことも、業務委託への注目度を高める要因です。
高い専門性を持つハイクラス人材を変動費で活用できる手段としてフリーランス人材の登用が多くの企業で進んでおり、フリーランス人材と法人を結びつける人材紹介会社も増えています。
今後、フリーランス案件を扱う人材紹介会社はより増えていく可能性も高いでしょう。
こちらの記事で新型コロナ感染拡大と人材業界の動向について、まとめています。
こちらの記事では人材業界の業界地図や最新動向をまとめています。
あらゆる環境が目まぐるしく変化し続け、思いも寄らない箇所に潜在的な経営リスクが潜むなど「予測がつかない」状態を指す言葉が「VUCA」。
Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字を1文字ずつ取った語句です。
現代は「VUCA時代」と形容されており、事業者には変化し続ける市場への柔軟な対応が求められます。
そのため、請負を主力とする事業者にとっては中長期に及ぶ「納品物に対する瑕疵担保責任」がネックとなっていくかもしれません。
最後に、派遣や業務委託に関連するよくある質問をまとめました。
結論から言えば「指揮命令権を持たない発注主が、業務委託先や準委任契約先に命令を行うケースが多い」からです。
業務委託先の法人や個人、SES契約先の企業は発注主にとって「外部」です。発注主とは言え、外部の法人・個人に指揮命令権を持つことはできません。
しかし、実際の現場では発注主が現場に介入して、ディレクションや命令を行ってしまうケースが後を立ちません。理由には「発注主にとっては、自社の社員がディレクションを行なった方が意図が正確に伝わり案件が早く進む」などがあります。
しかし、「指揮命令権を持たない発注主が、業務委託先や準委任契約先に命令を行う」ことは偽装請負に該当し、法律違反となります。
外部に対して指揮命令権を持ちたい場合は、業務委託ではなく派遣契約が必要となることを覚えておきましょう。
派遣や業務委託、請負のそれぞれの定義や違い、将来性、注意点などをまとめました。人材ビジネスや外部人材活用の基本となる知識のため、しっかり覚えておきましょう!
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