

人材サービス事業者の担当者様向けに「派遣」と「請負」の違いや、それぞれの開業に必要な資格やよくある質問をまとめました。
人材ビジネスの開業や事業運営を行う際、案件ごとにクライアントと「派遣契約を結ぶべきか」「請負契約を結ぶべきか」は異なります。派遣や請負に限らず、準委任契約や人材紹介の契約を結ぶべき場面もあります。
より詳しく、1つ1つ解説していきます。
まずは人材サービス事業者の担当者様向けに、改めて「派遣」「請負」の違いについて解説します。
派遣とは労働者が派遣会社(派遣元)と雇用契約を結び、外部企業(派遣先)で就業する働き方です。
派遣社員にとっては、雇用主は「雇用契約を結ぶ派遣会社」になることが特徴。給与の支払いや福利厚生の提供などは派遣会社が行います。
派遣が適している案件は「発注主が、労働者の指揮命令権を握ることが適している案件」です。
たとえば「介護」「小売」「営業」など現場での突発的な対応が多い職種が、上記に該当します。
現場の状況が刻一刻と変化する中で、スタッフが「人材サービス事業者の現場マネージャーの指示がなくては動けない」場合、顧客対応の品質に著しい悪影響が出ることが予測されます。
よって、発注主が直接指揮命令権を握ることが適しています。
なお、派遣と混同されやすい人材ビジネスの業態に「人材紹介」があります。
人材紹介と派遣の違いは、こちらの記事で詳しくまとめています。両者は「事業の立ち上げやすさ」や「利益率」「市場環境」が大きく異なります。
利益率や事業立ち上げのハードルの低さでは、派遣に対して「人材紹介」が大きく勝るため、人材ビジネスの新規立ち上げを検討している場合は派遣ではなく、人材紹介を行うことも視野に入れると良いでしょう。
請負とは「外部委託契約」の1つであり、当事者の一方が相手に対して「完成物の納品」「仕事の完成」を約束。相手方の企業は完成物の納品を受け、報酬を支払います。
請負が適している案件は「成果物が明確なもの」です。
例えば、製造業は請負が適している案件の1つです。機器の部品の製造と納品など、成果物が分かりやすく、請負者の責任の範囲も明確なためです。
この他にも「セミナー・イベント」「広告制作」「システム開発」などで請負契約が、契約の形態として採用されるケースが多いです。
先ほど、「システム開発」で請負契約が多く行われると記載しました。
しかし、近年では徐々にシステム開発の分野でも「準委任契約」など請負ではない形の委託が広がりつつあります。
大きな理由の1つは請負契約では一般的な「瑕疵担保責任」と、IT企業では一般的な「テクノロジーの変化の速さ」が釣り合わないこと。
契約時に仕様書で定めた内容に対して、実際の開発時に予期せぬエラーが発生したり、納品後に言語仕様やライブラリの大幅なアップデートが行われることは珍しくありません。
よって完成物の納品を約するのではなく、準委任契約として「労働力の提供」を目的化。実際の開発は、細かな仕様の見直しも含めて、順次内容をアップデートしていくという進め方も広がりだしています。
準委任契約で行われるシステム開発は、IT業界では「SES」と呼ばれています。
請負と人材紹介の違いは「勤務先と雇い主」。
請負の場合、労働者にとって雇い主は業務請負会社。勤務先は業務請負会社が依頼を受けた仕事の発注元企業となります。
一方で人材紹介の場合、労働者が登録した人材紹介会社はあくまで仲介役。勤務先と雇い主は共に、紹介先企業となります。
続いて、派遣業と請負業の開業について紹介します。
結論から言えば、派遣業の開業は法人・個人のどちらにとってもハードルが高く設定されています。
そのため派遣業の開業を検討している場合は、業界全体の将来性を慎重に検討する必要があるでしょう。
派遣業の開業にこだわりがない場合は、同じ人材ビジネスであれば「人材紹介業」の開業をぜひ検討してみてください。人材紹介業の開業については、こちらの記事でまとめています。
派遣業の開業に必要な資格としては「派遣元責任者講習の受講」が挙げられます。
資産要件やオフィス要件を満たした上で、派遣元責任者講習を受講。そして派遣元責任者に欠格事由がないと認められると、派遣会社の立ち上げが可能です。欠格事由が特段ない場合、派遣元責任者講習の受講と選任のハードルは高くはありません。
派遣業の立ち上げのハードルとなるのは、「2000万円以上」と定められている資産要件や「事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること」とされているオフィス要件です。
これらの要件については、以下の記事に詳しくまとめています。
資産要件やオフィス要件は、派遣業ではなく人材紹介業を開業する場合は大幅に緩和されます。この点も、派遣業と比較して人材紹介業が近年注目されている理由の1つです。
請負業の開業に必要な資格は、人材紹介や人材派遣と異なり、特にありません。
ただしクライアントとの契約作業にかかる工数は、請け負う業務にもよりますが比較的大きめ。
例えば小売業に関する請負であれば販売場所使用許可や販売営業許可、秘密保持契約や代理販売委託契約、売買基本契約などが多くのケースで必要となります。
続いて各業態の将来性について、解説します。
派遣業の将来性についてはこちらの記事でまとめています。
派遣業は「やばい」「オワコン」などと言われることもありますが、国内市場規模は広告業界に匹敵。国内の人材ビジネスを支える巨大産業であり、すぐに業界全体がピンチに陥るようなことは考えづらいです。
一方で事業の多角化や利益率改善は、今後の課題でしょう。
請負はあらゆる業界で一般的に行われている契約形態であり、どの業界においても「請負」がなくなることはないでしょう。
一方で「完成物の納品を持ってして、報酬が支払われる」というビジネスモデルは、瑕疵担保責任を巡ったトラブルが発生しやすいというデメリットがあります。例えばシステム開発などは、仕様書の策定段階では予期しきれないトラブルが発生しやすいものです。
よって、請負ではなく「準委任契約」が重宝される機会が今後増えていく可能性はあるでしょう。
派遣と請負を巡っては、「偽装請負」が問題視されることがあります。
偽装請負とは、本来ならば派遣業の資格が必須となる「発注主による外部人材の指揮命令」を派遣業の許可を取らずに行うことです。
発注主による外部人材の指揮命令が起きてしまう理由は「外部人材の指揮命令権が自社にないことを認知していなかった」「現場の状況がすぐに変化するため、現場で指揮命令を行わなければ業務が回らない」などが代表的です。
請負契約や業務委託契約が、自社にとってもクライアントにとっても良好なものとなるためには「契約形態に関するクライアントの理解」が欠かせません。
契約前の説明責任を、人材サービス事業者も一層認知する必要があります。
最後によくある質問をまとめました。
店頭調査を行う外部スタッフの指揮命令権を、自社が持ちたいか否かによります。
外部スタッフに直接指示を出しながら、リアルタイムで細かくリサーチを行いたいならば派遣契約をするべきです。
外部企業の現場マネージャーに指揮命令を任せ、リサーチした結果のみを受け取れば十分な場合は請負でも良いでしょう。
土木・建築業は派遣法によって、派遣業の運営が禁止されています。
そのため、建築のアウトソーシングをしたい場合は請負契約が基本となるでしょう。
記事の前半でも触れた通り、派遣業の開業のハードルは個人や小規模事業者にとっては非常に高いものです。
そのため小規模での開業を行いたい場合は、「請負」か「人材紹介業」が良いでしょう。
特に人材紹介業は、法人営業不要ですぐに求人案件を取り扱い、人材紹介業ができる「求人データベース」などのサービスが登場しています。
起業しやすい環境が市場に整いつつあるため、前向きに開業を検討するのも良いでしょう。
派遣と請負の違いを、人材サービス事業者向けにまとめました。必要な資格の有無や市場環境を分析する際の参考にしてください。
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